今は昔の話です。

競売業界に足を踏み入れた頃。

日頃とても温厚なAさんとお話をしました。

彼、大学をでると、亡くなった父親の跡を継いで社長に就任。

数年で倒産。

競売で家を失い、職業を転々。

私の、

「その中で、特に印象に残った仕事ってあります?」

という質問に、

「キャバレーのボーイの時かなあ。」

キャバレーとは、今ならキャバクラかな。

入ってすぐ、キャバレーの裏方仕事は慣れていない新人のころです。

お客さんがゲロ吐いて洗面台が汚物だらけ。

排水口も詰まっていました。

床も汚物が散らかっています。

掃除をしようとモップを探しました。

ところが、どこを探してもモップが見つからない。

息子の年齢に近い店長に、状況を説明して、

「モップが無いので買いにいっていいですか。」

「ーーー店長、何て言ったと思う?」

「さあ、分りません。」

なんの感情もこもらない、さらりとした口調で、

「手でやっといて。

早くしてよ。

お客様が洗面所を利用できないと困るから。」

ゴム手袋なんかありません。

思わず、

あれはまいったなあ。

考えたら、店長もそんな事は何度もやってたんだね。

そうでなければ、即かえってくる言葉じゃあないもの。

なに、僕もすぐ慣れましたが・・。

キャバレーは、会社を潰す前なんて毎晩通ったもんだよ。

その頃は、店の奥で、そんな事をしているなんて想像もしなかった。



この話、つい最近ですが、

やはり自宅を競売で失ったBさんに話した事があります。

そうしたら、

期待に反した反応です。

「ハハハ、そんな事はどうってことないよ。

僕は、汚れた便器の中に手を突っ込んで掃除ができますよ。

もちろん、素手。

お客さんが見てる時にやって見せるの。

そうするとね、余分にお金をくれる人がいるんだなあ。」

手は、消毒すればいいもの。

汚い仕事、人が嫌がる仕事ほどお金になるんですよ。」

バブルの頃は、高級車を乗り回していました。

「あのころに比べて、今のほうが気持ちが落ち着いているんだよなあ。」

【人の目】に対する意識の持ち方?なのでしょうね、きっと。