40年近い昔、私は競売専門会社に入社しました。

東京都知事免許業者です。

社長は、某有名私立大学出身。

社員は10人未満、家族的な雰囲気です。

当時の競売専門業者としては、東京ではトップクラスだったと思います。


今と違い、競売の参考書はありません。
(あったとしても、学生時代スポーツにのみ没頭していた私には理解不能だったでしょう。)

テキストと言えば、唯一、判例集でしょうが、

私は、そんな難しい本は見たことも触ったこともありません。

入社後何回かに分けて、土曜日、社長が 競売の実践知識と調査の仕方をレクチャアしてくれます。

宅地建物取引主任の資格はもっていた私ですが、とても新鮮な知識に、ワクワクしながら講義をうけました。


社長は、社員が勤務時間中でも、外出しないで専門書を読んでいますと、

その光景に文句を言わないという不思議な癖(ヘキ)がありました。

勤務時間は、会社に利益をもたらす為の社員の労働提供時間ですが、

私は時々、

自分の知識吸収の為にだけ使っていました、給料を貰いながら!

それが会社の将来の利益につながるのだ、

などというカッコいい屁理屈の認識はまるでゼロ。

独立する為の知識の吸収!


「うちは退職金はないよ。

ただ、身につけた知識は、君たちのものだ。

うちを辞める時、うちで得た知識をおいていけ、と言っても無理な話さ。」


当時、裁判所が提供する競売資料は殆ど無いと同じ。

「三点セット」などはありません。

「三点セット」的情報は、我々営業兼調査マンが自分で集めます。

平日は、登記所と市区役所チェック兼現地調査兼客付けでワンセット。

客付けとは、買手探しです。

都内近郊ですが、1日2セットが目標。

謄本チェックは、現地調査と同じくらい重要な作業と教えられました。
(今、三点セットに謄本を添付していないのが不思議です。)

忘れもしません、調査第一日目。

調査物件は板橋区の1件だけ。

登記簿謄本を、そっくり書き写して来い、という指示です。

それまで仲介業で謄本はなんども見ていましたが、

書き写すという作業は、

それまで私がわかっていると思っていた謄本記載の用語の意味、

謄本全体からにじみでる所有者の一面の把握など、

それまで大雑把だった謄本から得られる情報をより深く教えてくれました。

新入社員にそのことを気付かせることが目的のようでした。


当時、「競売はヤクザがバッチシ絡んでいる」という噂は聞いたことがあります。

私は、まさか、裁判所内で行われる競売に、そんな事がある筈はないだろう。

田舎育ちの私は、ヤクザという職業の人たちを全く知りません。

映画やテレビで見たことがあるだけです。

社長に聞いてみました。

「競売はヤクザがいるって本当ですか。」

社長、首をちょっと傾けて、

「紳士はいるけどなあ・・。」

考える仕草です。

ちょっとホッとしました。


一通り慣れてきますと、折を見て東京地裁の競売場に連れて行かれます。

当時の競売は、今の入札制度ではなく、セリです。

その場でセリをして、そこで競落人(=最高価買受申出人)が決まります。

初めて競売場に連れて行かれた時はビックリ。

大ショックのビビりまくり。

話が違うよ

会社を辞めようか

競売場に、噂通り、本当にいたのです。

すぐに本物と分りました。

黙って立っているだけで、迫力が物凄い。

ウヒャア、こりゃあ映画以上のド迫力!


そういえば、社長は、紳士はいる、と言いましたが、

ヤクザがいない、とは一言も言っていませんでした。

「ヤラレタ!」


以前、連れてこられたある社員は顔面蒼白、

「トイレに行ってきます。」

そう叫ぶと、駆け足で競売場から走り去り、そのまま戻って来なかったとか。

そんなことはよくあるようでした。

ああ、自分ちのトイレに駆け込む奴が多いよ、地震でもないのに。

そのまま翌日になっても出社してきません。

最終実地試験は自ら棄権、という社員が結構いたようです。


社長は良く見ています。

私を裁判所に連れていったのは、最初の1回だけ。

入社そうそう何度も連れていかれたら、私も自宅トイレに駆け込んで戻らなかったでしょう。

謄本の見方や現地調査、客付けの方法を叩きこまれました。

それらの作業はとにかく楽しく、充実感に満たされながらノウハウを吸収しました。


その頃、競売の新しい法律が検討されている、という話を顧問の弁護士先生から聞きました。

「アメリカ(州名は不明)の競売制度を参考にしている。

今までと全く違う環境になるよ。」

その先生も、法律作成に意見具申する一員でした。


社長がポロッともらしました。

「これからは、競売も儲からなくなるなあ。

今まで以上にジックリコツコツの地味な作業をする努力の出来る奴が残るよ。」

その社長も数年前に他界。

葬儀は極々の身内だけで営んだようです。





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